『First gail(Handle)』


あの頃、私たちはまだ二人だった。
同じクラスになどなったことがなくても、私たちは休日にお互いの家に行き来するほど仲が良かった。
何故、それだけではダメだったのか。それは二人の性格にあった。
私たちはくだらない話もすれば真面目な話もする。その中でも抽象的な事柄に関しての話を時々ながらも真面目に自分の意見を言い合うのが一番の楽しみだった。
私は現実主義者だった。それも夢見がちな現実主義者だ。夢は見ているが同時に現実にそういうことが起こらないことも知っているのだ。要するに冷めた人間だったのだろう。
彼女は理想主義者だった。それも現実的な理想主義者だったのだ。現実を見ているはずなのに、どこかで自分の理想を捨てられない人だったのだ。

こんな二人が抽象的な事柄に関して真面目に話し合うとどのようなことになるか想像することができるだろうか?
私たちの意見は真っ向から対立する。それも現実主義である私の意見の方が強い形で会話が進行する。
結果、彼女は自分の甘さを思い知り、現実を思い知り涙するのだ。この世のすべてを悲観して涙するのだ。
その段階になって私ははじめて思い知る。私の言葉がどれだけ彼女の思想を傷つけ追い詰めたのかを。

二人は懲りることを知らなかった。だからいつもこのようなことの繰り返しだった。
休日にお互いの家に行き来し、ゲームをしたり本を読んだりお互いの存在を感じながらダラダラと過ごす中でふと疑問がクチをついてでる。それがいつも真面目な話をする時の始まりだ。
意図してそういう展開に持っていくときもあれば偶発的にそういう状況に陥ることもある。
その疑問に対して私たちは率直な意見を言い合う。その中で自分の意見と違うところ、同じところを聞き、考え、認め、又反論する。
このようなことを一体何度繰り返しただろう。それでも私たちはやはり懲りることを知らず、彼女が泣くと言う最悪のパターンを何度も経験した。
そう、三人目の彼女に出会うまでは………。

三人目の彼女の第一印象はつかみ所の無い子だということだった。時々見せる笑顔以外は主に無表情。それは彼女が人見知りしやすい性格だからだということは後になって知った。
彼女は不思議な子だった。自分の意見をはっきり言うわけではないが、引かないと決めたらとことん引かない。積極的に自分の考えを言うわけではないが、求められれば答える答えを持っている。そんな子だった。

私たちは偶然の名の下に知り合い、話をするようになり、お互いの家に行き来するようになり、又、真面目な話をするようになった。
彼女が私たちの真面目な話しに加わることになったのも偶然の出来事だった。
その日は三人で一人の家に集まり、本を読んだりしつつみんなで同じ空間を味わいながら適当に過ごしていた。始まりは突然だった。何が引き金になったかは記憶にないが、私たちは真面目に自分の考えを出し合った。
会話は私たち二人の討論で進んでいった。彼女は私たちの討論の合間に時々自分の意見を言う程度で強い発言をすることはなかった。
私たちはいつも通り話を展開していった。空気はだんだん重くなり重くなっていくのを感じつつも自分の意見を曲げられず、とめられないという最悪の状況だ。
このまま行けばどうなるか知らないはずはないのにとまらないのは私たちの共通した悪いところだ。反論されれば引けないとばかりに自分の意見の正しさを主張する。
やがて、嫌な沈黙が訪れた。すでに言うことは言い尽くし、お互いににらみ合うことすら出来ず、うつむいたまま、ただただ時間だけが流れていく状況。何故ここまで空気が重くなったのか分かるのにその空気を払拭することもできず暗い沈黙だけが空気を支配した。
その空気を換えたのが三人目の彼女だった。
どのような方法だったかは定かではない。しかし、彼女の一言でその部屋の暗さが一変したのは変えようの無い事実だった。
真面目な話をしている時に私たちに笑顔が訪れたのは初めてだった。
口元が自然とほころぶのを感じた。彼女の存在は私たち二人にはならなくてはならないものになったのだ。

私たちは三人でバランスが取れる。二人でも遊ぶのに支障はないし話すこともできるが、真面目な話をする時は三人いて初めて一番バランスが取れるのだ。
アクセルとなる彼女がいて、話のハンドルを握る私がいて、ブレーキをかける彼女がいる。

月日がたち、私たちはお互いの道を歩み始めた。大学に進学するもの、専門学校に行くもの、母になるもの……。
私たちは三者三様の道を歩む。共に歩くのではなく、時々道の途中で交わる。
会う機会も話す機会も滅多になくなった。三人がそろうことは何よりも困難になった。
それでも私たちはお互いを大切に思う。お互いのいる空間を楽しみ、真面目に話すことを知った私たちはきっと今後もお互いを忘れることはないだろう。
いつかまた三人で夜通し話す日が訪れるのだろうか……。
ソレを信じることが今の私の糧になる。幼き日の子供の戯言が今の私を形作っている。

永遠に忘れることは無いだろう。幼き日のアノ言葉も彼女の涙も彼女の温かさも…。
すべては私の胸に息づいている。永久に残る思い出。彼女たちとの出会いで私はかけがえの無いモノを見つけたのだ。


--First gail's speak--


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